妊娠云々よりも腰痛のほうが急務なのに、整形外科では湿布薬を処方されただけ、安定期前ということで整体やマッサージ、鍼灸も受け入れてくれない。駅前で見かけたところを片端からあたって同意書を書くことを条件に施術してくれたカイロプラクティックがあった。
予約を受け付けないので、待合室でマンガを読みながら延々と待たされるその院は、一度呼ばれてマッサージを受けてから、またしばらく待った上で整体師の施術を受けるというシステムだ。藁にもすがる思いで行った一回目で少し痛みが軽減されたので、「出産まで毎週通うのが理想」という向こうの指示に応えるのは難しいだろうと思ったけど、とりあえず二度目も行ってみた。
前週とは違うマッサージ師にあたる。カルテの妊娠週数の記述を見たのであろう彼は、「おめでとうございます」と言ったあとに、「ボクも二歳児がいるんです」と話しかけてくる。マッサージ中に格別話したくないし、ましてや彼の息子のことなんてどうでもいいんだけど、一応「あ、そうなんですか〜」と、素っ気なく聞こえない程度に語尾を伸ばして答えてみる。が、それをすぐさま後悔することになる。
「もう産む病院とか決めてます?」に始まる彼の話は、「妻はすごく計画を練ってたんですけど、ギリギリで帝王切開になっちゃって」「立ち会えなかったし、痛そうだし、それは残念でしたよ」「子どもはかわいいんですけどね、ずっと一緒に居ると頭がおかしくなりそうで。こんなこと言っちゃアレですけど、ここ、出勤する場所があって良かったなって思いますよ。逃げられて。女性は大変ですよね、ほんと」
マッサージは下手なのに口は達者で、こっちがああ、とかうう、とかしか発語していないのに、話が止まらない。こんな立ち入った内容を客との世間話に使われて、この人のヨメも大変だろうな、といらん心配をしてしまった。妊婦ケアを謳い文句の一つにしてるのに、毎度こんな話をしてるんだろうか? そのあと30分以上待たされてからようやく対面できた整体師は寡黙で、施術も的確だった。
軽率で配慮が足らなくて技術力もないマッサージ師にはうんざりしても、整体のためならリピートしていたかもしれない。でもあたしは気づいてしまった。軽率なマッサージ師よりも、彼に猛烈な嫌悪感を抱き、心で悪態をついてしまう、自分の中のブラックはもっと嫌なのだ。これは妊娠の作用なのか? つわりの一種? 体は多少ほぐれても、気持ちが凝り固まっていくようじゃどうしようもないのでこの院とはさようなら。腰痛とはまだまだ付き合うことになりそうです。