2013年1月26日土曜日

おしゃべりなオトコは嫌いだってば

妊娠云々よりも腰痛のほうが急務なのに、整形外科では湿布薬を処方されただけ、安定期前ということで整体やマッサージ、鍼灸も受け入れてくれない。駅前で見かけたところを片端からあたって同意書を書くことを条件に施術してくれたカイロプラクティックがあった。

 予約を受け付けないので、待合室でマンガを読みながら延々と待たされるその院は、一度呼ばれてマッサージを受けてから、またしばらく待った上で整体師の施術を受けるというシステムだ。藁にもすがる思いで行った一回目で少し痛みが軽減されたので、「出産まで毎週通うのが理想」という向こうの指示に応えるのは難しいだろうと思ったけど、とりあえず二度目も行ってみた。

 前週とは違うマッサージ師にあたる。カルテの妊娠週数の記述を見たのであろう彼は、「おめでとうございます」と言ったあとに、「ボクも二歳児がいるんです」と話しかけてくる。マッサージ中に格別話したくないし、ましてや彼の息子のことなんてどうでもいいんだけど、一応「あ、そうなんですか〜」と、素っ気なく聞こえない程度に語尾を伸ばして答えてみる。が、それをすぐさま後悔することになる。

「もう産む病院とか決めてます?」に始まる彼の話は、「妻はすごく計画を練ってたんですけど、ギリギリで帝王切開になっちゃって」「立ち会えなかったし、痛そうだし、それは残念でしたよ」「子どもはかわいいんですけどね、ずっと一緒に居ると頭がおかしくなりそうで。こんなこと言っちゃアレですけど、ここ、出勤する場所があって良かったなって思いますよ。逃げられて。女性は大変ですよね、ほんと」

 マッサージは下手なのに口は達者で、こっちがああ、とかうう、とかしか発語していないのに、話が止まらない。こんな立ち入った内容を客との世間話に使われて、この人のヨメも大変だろうな、といらん心配をしてしまった。妊婦ケアを謳い文句の一つにしてるのに、毎度こんな話をしてるんだろうか? そのあと30分以上待たされてからようやく対面できた整体師は寡黙で、施術も的確だった。

 軽率で配慮が足らなくて技術力もないマッサージ師にはうんざりしても、整体のためならリピートしていたかもしれない。でもあたしは気づいてしまった。軽率なマッサージ師よりも、彼に猛烈な嫌悪感を抱き、心で悪態をついてしまう、自分の中のブラックはもっと嫌なのだ。これは妊娠の作用なのか? つわりの一種? 体は多少ほぐれても、気持ちが凝り固まっていくようじゃどうしようもないのでこの院とはさようなら。腰痛とはまだまだ付き合うことになりそうです。

2013年1月25日金曜日

まだ間に合う、と友は言う

酒飲まないの、二日酔い? と聞かれたので、「妊娠した」とさらっと返すと、一瞬の間の後、「なんで!? マジで!?」という反応だった。なんでって。友だちの婚約祝いが会食のテーマだったので、主役の座を奪わないようにあっさり流すつもりだったのに、そうもいかず。

 「産むの!?」と重ねて主役の彼女が聞く。産むの、って。選択肢は別にないでしょう、と答えると、「あるよ。堕ろすならまだ間に合うよ」と。新しい反応だな、とたじろぎつつ、選択肢としてないことを告げると、なにやら納得がいかない様子で「アンタが妊娠ねぇ」とつぶやく。

 ひと仕切り婚約に至った流れと今後の予定についての話で盛り上がった後に、話がまた戻ってきて、「で、どうなの妊婦」と話をふられる。昨日知りたての「会陰切開」について語ると、案の定誰も知らなかったので、wikipedia で調べてエグい図解を共有する。切って縫えば治るって、誰に見せるもんじゃなし、と慰められるのだが、切るも恐怖、縫うも地獄、でも何が嫌って、市場価値が下がること? 

 主役が「決めた、あたし、結婚して何年か経って退屈しても、子どもは産まずにネコ飼うわ」と、婚約したばかりのくせに宣言する。「アンタも間に合うって」。ろくなこと言わないな、と普段なら軽く流せるところなんだけど、ホルモンバランスのせいか、一人だけ酔ってないせいか、いつもよりイラッとする気持ちを抑えられない。

 「でもさ、普通、結婚した時点でもう市場になんか出るつもりもなくて、子どもができたら幸せいっぱいで産むのに必死だから傷なんて気にしないんだろうけどね。降りたくない気持ちのまま妊婦だから辛いよね。」指摘はごもっともな部分もあり。

 現役ぶって何がしたいわけじゃないし、市場価値、っていったって、酔った勢いであわよくば的に誘われること? そんなものは価値とは呼べまい。でも、私の会陰…昨日まで名称すら知らなかったそんな部位がこんなにも愛しいなんて。

 断ち切れない現役感と会陰への執着はありつつも、消極的なようでいて自分は少なくとも「堕ろす選択肢は考えなかった」ことを認識したのでよしとしよう。友はろくでもないことを言うが、想定外だからこそ友情が続いているのだ。


2013年1月22日火曜日

酒と泪と男と妊婦

妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。
…ビールの缶に書かれたこの字ヅラをよくよく読み込む日がくるとは思ってもみなかった。

 1月に九週で妊娠が発覚するまで特に子作りの意識も、当然妊娠の認識もなかったので、忘年会、年末のバカンス、年明けの出張、と飲んで飲んで飲まれて飲み続けてきた。なんとなく調子が出なくて、飲酒量が例年よりずっとライトではあったけれど。

 妊娠にまったく気づかず飲んでたけど、そういえば弱くなったなって思ってたんだよ、と子どもを持つ知人に言ったら、それぞれに「大丈夫だよ、知った日から控えれば。大丈夫!」と力強く慰められてしまった。慰めはよしてくれ。本人は気にしていない。だって、しょうがないじゃない?

 母親に報告の電話をしたときに、「どうしよう、妊娠してたよ、酒が飲めないよ」と嘆いたら、「うん、私は飲んでたらアンタみたいな子になったからね! 控えた方がいいわね!」と言われた。どういう意味だよ。

 いずれにしろ「妊娠に気づくまでの飲酒はカウントしない」という理屈にはまったく科学的根拠がない。それじゃあなにかい、妊娠を知った瞬間に開通するラインがあって、その瞬間からアルコールを通すようになるとでも? 否。もう通っているのだ。初期は特に注意が必要だと、ものの本に書いてあった(一応調べた)。

 それより私が驚かされるのは、年末からそもそも酒があまり進まなくなっていたことの方だ。医者に行こうかとも思ったけど、「酒が尋常じゃなくらい弱くなりました」という理由では違う治療をされるのではないかと思って躊躇していたほどだ。歳でもなく、体調不良でもなく、原因はパンダで、2センチに満たないボディでそれなりに主張していたんだな、と思うと、巨人に噛み付くアリのようでなんだか楽しい。…ような気もする。

 なにはともあれ、覆水盆に返らず。腹水から酒は抜けず。今後飲むも飲まないも私次第。でも、自分みたいな子も、まぁ悪くないんじゃないか? …とでも思わないとやってられない、よね。

2013年1月17日木曜日

パンダ日和

安定期に入るまで会社には言わないでおこうと決めた。流産を経験した友だちも何人もいる。安定期は大体20週目くらいだと聞いたので逆算すると、あと二ヶ月以上もある。

 胎児をいわゆるベビーとして意識してしまうと、ダメだったときにショックが大きい。友だちを慰めてきてつくづくそう思った。だから軽い認識でいるのがいい。とはいえ何かと言及することは避けられないので、夫のヒトとの間では「パンダ」と呼ぶことに決めた。

 なぜなら、パンダは人気者だから。ではなくて、パンダの繁殖は難しい、という自戒を込めて。ってほどでもないけど。ノリだけど。昔パンダのランランだったかが寝返りを打って自分の子どもを潰してしまったのは子ども心に衝撃を受けたし、去年もシンシンの子どもがわずか数日で死んでしまってニュースになった。パンダに過剰な期待をしてはいけない。

 あと、子どものときに好きだった『ジャングル大帝レオ』。主題歌で「パンジャの子」という歌詞をずっと「パンダの子」だと信じて歌っていたのに、親は正してくれなかった。なんでパンダからライオンの子が産まれるんだろう、とは思ったけど、疑問をさして掘り下げないのは昔からの性質らしく。鳶が鷹。あるいは蛙の子は蛙。どう出るかは分からないけど、パンダとの日々は、知らぬ間に始まっている。


2013年1月15日火曜日

パンダ発見

出張から帰国した翌日、大雪が降った。その夜からいきなり、立ち上がるときに背中に猛烈な痛みが走るようになったので、次の日は会社を休んで病院に行くことにした。前日の雪がまだまっさらで、歩行路が僅かしかない病院までの道のり。
 腰のX線をとる前に、妊娠の可能性が0ではないならば一応妊娠反応をみてみませんか、と聞かれ、「生理は不順なんです。いつも不順なんですけど」と固辞しながら尿検査を提出して戻ると、「陽性ですよ」と微笑みかけられた。ヨウセイ? 妖精? 
 全く予期していなかったので、あれよという間に婦人科で台に載せられて大開脚で「ほら、います。計算だと9週目くらいですかね。どうですか」と感想を尋ねられても「ただびっくりしています」と、気が利かない、広報的にいえば「使われない」タイプのコメントしかできなかった。
 うれしくないわけではない、と思う。でも手放しでうれしいわけでもない。そういえば体調が悪かったのも、酒に弱くなっていたのも、11時間の飛行がいつもより体に響いたのも、だからだったんだ、としっくりくる感慨の方が強い。忘年会シーズンくらいから思うようにお酒が進まなくなっていて、先週もたった三杯の泡で吐いた。まわりには歳のせいだよ、とあしらわれて、腑に落ちないまま飲み会の席で水をがぶ飲みしていた。
 そんなことを思い返していたら、ふと浮かんだのが、「今年の忘年会は、オールとかできないんだ、あたし」という思いだった。恒例の忘年会! ちょっとマンネリ化しているけど、でもそんなところが心地良い、例年のお約束。オールどころか行けないのかも、今年どころか、来年も再来年も行けないのかも? 決定的になにかが損なわれてしまった感じ、もやもやとそのオーラが胸に広がって、広がりきったらまた薄れていった。心配するべきことは、もっとほかにある。 
 その心配を増やすことが任務かのように、 看護婦さんが笑顔で、かつ淡々と、諸手続きや今後の流れを説明しながら、大量の書類と冊子を渡してくれる。質問はない? と言うので「安定期に入るまで仕事先には言わないでおこうと思いますが、安定期はいつですか」と聞くと、20週くらいね、と答えながら「すぐ言うのがいいわよ。残業とか、仕事の融通してもらったりね」とまた笑う。いや、一昨日までアメリカ出張してたんですけど、それでいきなりなんて、と戸惑うと、「知ってたら怖くて飛行機なんて載れなかったわね!」とケラケラと弾ける。そうなのか? 知ってたら行かなかったのか? ってか、普通って、なに基準よ? 手元の、もらったばかりの昭和的なイラストが表紙に描かれた冊子に、求めている情報はありそうにない。
 「こんにちは赤ちゃん♪」的な出版物やブログは数多あれど、しっくりくるものが思い浮かばない…のは多分、まったく探したことがないからだろうけど。そんなに夢見る少女じゃいられないところの気持ちをつらつら綴れば、少しはもやもやが和らぐんじゃないかと思い立ってブログを立ち上げてみた。仮に「すべての犠牲が犠牲とも思えなくなる」(って一般的に表現されがちな)瞬間とやらがくることがあっても、酒に弱くなって衝撃をうけたこととか、年明け早々から忘年会に考えを巡らせたこととか、ロマンスの神様、いつまでもずっとこの気持ちを忘れたくない♪ という万感の思いを込めて…。