2013年10月16日水曜日

そして母になる

8月15日にパンダが産まれてから二カ月経過。今までのように日にちを遡ってごまかそうか迷ってやめた。二カ月経って感じることを、ここまでの期間に置き換えると、だいぶ嘘っぽいから。

 育児エッセイやマンガの多くが大体二カ月くらい経過してから始まっているのを不思議に思っていたけど、産んでみるとよく分かる。そんな時間はどこにもない。体力もない。当然気力もない。ついでに目もかすんで見えにくくなっていて、何かを読んだり書いたりするどころじゃなかった。もうこのまま見えないんじゃないかと思った。ダメなんじゃないかと思った。出奔しようかと思った。でも何をするにも体力と精神力がなかった。いつも泣きたいような気分だったけど、涙はまったく出なかった(そして先週、視力低下について「涙が足りない」と眼科で診断される)。

 出産当日に生まれて初めて赤ん坊のオムツを替えて以来数百回のオムツ替え、同じく数百回の授乳を経て、頑なに避けていた「おっぱい」「赤ちゃん」「うんち」「おしっこ」等の単語も臆面なく言えるようになった…というより、ボキャブラリーがもはやそれしかなくなった。

 母性や母親としての自覚の芽生えは感じないし、頭の中は嫌になるほど相変わらず自分のことばかりで、ドーパミンや幸せオーラが分泌される実感もないのに、乳はほとばしり出た。他人に乳の出について聞かれるのにも慣れた。乳幼児虐待のニュースを見ながら、「こんな親でもこの日々を乗りきって、子どもが三歳やら五歳やらまでは育ってるんだな」と変に感心した。

 妊娠で八キロ増えた体重は、産後一ヶ月で十二キロ減った。一ヶ月検診では医師に「おめでとう、卒業です。日常生活に戻れます」って言われたけど、手放しでは喜べない変化が体に残ってるし、戻るべき日常なんてもうないような気がした。少なくともあたしの定義での「日常」は。浴びるほど飲みたい衝動に何度も駆られた。でも飲まなかった、浴びるほどには。寝られないし飲めないし外に出られないし、したいことが何一つできないなら、日常生活って何?

 そんな状態で二カ月が経って、新生児は乳児になり、あたしは母になった。…のか? パンダには多くを求めない(今のところは)けど、生きていく上で「明けない夜はない」という月並みなことを知ってほしいと思った。だからあたしもそればかりを念じた。この眠れない夜が無事明けますように。長い夜は明けそうなののか、まだまだ明けないのか。はたまた白夜だったりして? 母になるよりも女でありたいんだけど? …懐疑的で欲張りなあたしが戻ってくることが、なによりも復活の兆しなのかもしれないけど…。

2013年7月20日土曜日

洗いざらしのロンパース

新品を着せるのはクールではないので、風合いを出すためにベビー服を洗った。…って、ヴィンテージ仕様のジーンズじゃあるまいし。

 ベビー服は、一度「水通し」するのが望ましいらしいですよ、奥さん。ご存知でした? あたしは知らなんだ。一部の衣類に「水洗い不要」という表示を見つけて、「ということは、ほかは必要なんだな」ということを逆説的に理解したんだけど、まぁ人に寄りけりらしい。哺乳瓶の消毒ほどには一般的ではないらしい。ワゴンセールの商品を洗ったり洗わなかったり(そもそも買ったり買わなかったり)するのと同じだな。

 大雑把なはずの妹が、「最初は赤ん坊用洗剤で水通ししたよ。暇あるんだからやっておきなよ」と言うので、しておくことにした。無菌主義じゃないけど。むしろ免疫つけて欲しいけど。「戦時中は防空壕でも出産してたし、不衛生な環境でも育つ子は育つし」とブツブツ言いながらジップロックにしまっていたら、オットの人に「とか言いながらやってるけどね」と笑われたのが悔しかった。

 洗いざらしのベビー服は、見事にシワシワ、くしゃくしゃの使用感が出ている。これが単なるお下がりコレクションと捉えられるか、愛情をかけた水通しアイテムと捉えられるか。パンダの着こなし術に期待したい。

2013年7月13日土曜日

産休告知メールと不在通知

産休前の挨拶メールをto do リストに置いたまま、いよいよ来週から休み、と日程が差し迫ってしまった。いっそ出さないというのはどうだろう。メールが届いた場合だけ自動返信で不在を通知する設定にしておくとか。ただそれだと、メールをもらった相手に「当然(産休について)関係先に知らしめたであろうに、自分には連絡がなかった」と誤解されかねないし、先方は自動返信をみてから別の担当者に連絡をしなければならない、という二度手間になってしまう。「なお、どなたにも事前告知はしておりません」と付記するわけにもいくまい。具体的な予定日を知らせないまでも、いずれ産休に入ることは知らせていた相手には「そろそろかな」と思われているに違いない。

 それでも気が進まないのは、産休という非常にパーソナルな事柄を伝えなければいけないことへの戸惑いがあるのと、それをどのレベルの関係先まで送るのソートが面倒だからなのだった。自分自身が届いた挨拶メールに対して「イベントで一年前に名刺交換したことがあるだけなのに、わざわざ産休を知らせてくるなんて、余程うれしいに違いない」と邪推した経験もある。あたしほどねじ曲がった受け取り方をする人はそういないのかもしれないが、妊娠・出産に対して様々な取組みや思いを持っている人を考えると、行間におめでたさがにじみ出るような挨拶メールは出したくない(検索するとこの手の文例が多い)。復帰時期は重要な要素なのに未定事項。課題は多い。
 
 スマートかつプロフェッショナルな挨拶メールの前例がないか、編集者であるところの友人たちにも尋ねたのだが、特に心当たりはないという。でも告知は出すべき、というアドバイス。できれば産休ということにもふれたくないが、「長期休暇」とだけ書けばメンタルかワケありだと思われて余計な心配をされてしまう。悩んだ挙句、無駄を削ぎ落として非常にシンプルな挨拶文を作成した。

 メールへの自動返信で誰彼構わず産休中だと告げるのはどうしても嫌なので、簡潔で曖昧なところで妥協した。英文併記なのでよくよく英語版を読むと産休だと分かる、という隠れメッセージつき。英語は簡潔に済むからいいな。

 これでも不愉快に感じたり、疑問を持ったりする人はいるのかもしれない。誠に挨拶メールというのは難しい。なんとか出し終えて「産休前の挨拶メール」の項をチェックできたのは良いけど、復職したときの挨拶メール、というのがto do に加わったので+−0…。半年後のあたしは、業務効率化のオニになっていて、こんなつまらんことに時間を取られたりしないのだ、と思いたい。


[同報挨拶メール]
(※一斉送信にて失礼します)
日頃より大変お世話になっております。
私事ではありますが、来週、X月XX日より出産のために長期休暇をいただくことになりました。来週以降のお問合せにつきましてはXXXまでお願いします。

復帰後、また皆さまとお目にかかることを心より楽しみにしております。
末筆ながら皆さまのご健康とご多幸をお祈り申し上げます。


[不在通知]
当面の間、休暇をいただいております。
お手数ですがお問合せはXXX宛にお願いします。

Hi,
I'm taking maternity leave and will be out of the office for a while.
During my leave, please contact XXX.
Thanks.

2013年7月6日土曜日

九ヶ月妊婦の海外行き…その顛末

念願叶ってタイ出張、無事に旅立って意気揚々と帰国する…ところまでは良かった。タイ航空で診断書にちょっとケチがついたけど(※営業日に関係なく7日以内の診断書が必要なため、火曜出発で前週火曜は基本NGだと言われてチェックイン時に軽くもめた。休診日もあるし、前日に行くほどヒマではない)、フライトはなんの問題もなかったし、何人かに脅された「気圧の変化でお腹がおかしくなる」ようなこともなかった。むしろ成田からのNEX&JRの旅の方がしんどかった。

 現地ではいつになく慎重に、ホテル内と高級レストランと空港・機内でしか食事もとらなかった。ストリートフードにも途上国のナマモノにも果敢に挑戦するあたしにしてはよく頑張った。

 しかし。「一般人の10倍くらい菌に弱くなっている」(出展は覚えてないけどどっかに書いてあった)妊婦の体をナメてはいけない。早朝便で帰国して、昼にはいなり寿司、夜はあまり誇れないがデリバリーピザを食べたところまでは良かった。早めに就寝しようとした22:00前後、猛烈な嘔吐と下◯、胃痙攣に襲われて夜間救急に電話、クルマで病院に急行〜。

 診断は急性胃腸炎と、それに伴う切迫早産とやらで、深夜に検査を諸々受け、安静指示をうけて帰宅。整腸剤でどうにかなるレベルじゃないけど、痛み止めは飲めず…。数分おきにくる強烈な差し込みに身悶えしながら、眠れない夜を過ごす。陣痛の予行演習のようだ。陣痛じゃなくて本当に良かったけど、「刺激で産まれちゃうとマズイから」って医者に言われたけど、本当にマズイよ、荷解きしてない出張の荷物以外はなんの入院準備もできてない、つうかまだ買い揃えてすらいない!

 痛みのなかでもあたしは、少女パレアナのように前向きであろうとした。パンダよ、胎内に踏みとどまってくれてありがとう、雷鳴轟いているだろうがしばし我慢してくれ、と念じつつ、胃腸炎の潜伏期間というやつに心から感謝する。現地で発症してたら、あのタイ航空が載せてくれるはずがなく…うう、執行猶予バンザイ。母国の土を踏ませてくれてコップンカー。


 そして空白の五日間。入院は頑なに拒否して、通院による点滴生活。「こういうのは長いから、一、二週間かかりますよ」って医者には言われたけど、四日間でなんとか生活レベルに、一週間でほぼ正常に戻った。当然出社もできなかったけど、同僚たちは心配してフォローしてくれた。すいません、すいません。現地で飲酒とか夜遊びとかしてなくて良かったよほんと。同情の余地がなくなるところだった。

 出張にあたり「あまりお勧めしませんよ」と釘を差されていた医者には自業自得オーラで診察されるのを覚悟していたのだが、それもなかった。忘れていただけかもしれないが。大変だったわね、と助産師たちも優しかった。皆さまの、暖かいご支援が、ただれた胃に染みます…。

 切迫早産の危機も脱して健康体に戻ったから言えることだろうが、それでもあたしは行って良かったと思う。出張から得たものは大きかったし、行かなかったら行かなかったで、慎重過ぎたな、と悶々としていたと思う。やらないより、やって学習する方が好きな射手座なんで。What doesn't kill you makes you stronger...また一つ、逞しくなりました。



2013年6月12日水曜日

「ママ友」に感じる違和感

妊娠・出産周りには、違和感を感じるボキャブラリーが多々ある。「プレママ」(「ママ」になる前、つまり妊婦のこと)、「仲良し」(妊娠中のセックスのことらしい)なんかの妊婦雑誌に造られたと思しき単語はもちろんだが、「おっぱい」「赤ちゃん」等の一般的な般用語も、あたしの辞書では「乳」「胎児」に変換しておきたいのだが、いけないんだろうか。自主的には発語せずに通しているのに、隠語を言わされるプレイかのように、表現を強要されそうになることが時々ある。

 フライトチケットをとるときに、「赤ちゃんはお一人ですか?」という質問に対して「はい、"赤ちゃん"は一人です」と答えることができなくて、かといって、その質問に「"胎児"は一人です」と応じることも憚られたので、メールを引用する形で

>赤ちゃんはお一人ですか?
はい、そうです。

と返信した。
助産師に「おっぱいの調子はどうですか」と問われれば、「異常ありません」と答える。

主語を返さなくて良い日本語の便利さよ。どうでも良すぎるこだわり。会陰の話はどこででもできるのに。

 「ママ友」も、必要もなければ発語することもないだろうと思っている。「ママ友になりましょうね!」と言われれれば、波風を立てたくないので曖昧に微笑みながら「いろいろ教えて下さいね〜」とかなんとか答えてごまかすけど、そもそもママ友ってなんなんだ? 

 一緒に飲む友だちはせいぜい「飲み仲間」、「同様に企業に勤める友だち」を表現する言葉は特にないし、学生時代の友だちは「高校時代(から)の友だち」とヒラくしかない。なんでママ友にだけ独特の表現が用意されてるんだ? 「〜友」って表現、品がなくて悪いけど、セフレとかヤ◯友を連想させるんだよね。利害関係なのか。情報とベンチマークの? あるいは趣味を同じくする仲? 「句友」みたいに。子育てという共通の趣味。

 「ママ」という表現にも、いい大人が「友だちになりましょう」と言って友情を始めることにも違和感があるのでダブルでくらうのだ。こういうネクラでひねくれたことを考えるあたしは「ママ友」には向かない、ということを、母親学級で一緒になった「プレママ」たちもいずれ察するだろう。

 入院予約に関して、「初産は特に相談とか、話し相手とかいた方がいいから、修学旅行が苦手じゃなかった人は(笑)ぜひ大部屋にして下さい」と助産師が勧めていた。あたしは迷わず個室を希望した。さらばママ友予備軍…あたしは孤独と乳飲み子と同室で充分だよ。


2013年6月4日火曜日

はじめての保育園見学

保育園に入れるのはなにやら大変らしい、というのは、時事ネタとしては知っていた。しかしまさか自分の身に振りかかるとは思っていなかったので、実際どういうことなのかは未知のまま。
 
 区で(妊娠が判明して衝撃を受けたその日に)もらった書類を見返してもさっぱり理解できないし、表面上の手続きしか書かれていなくて、何がどうすると「待機」児童とやらになるのかも分からない。親切な同僚や友人たちから断片的な情報をもらい、早々に開戦した方が良いらしいことは理解した。産まれてもいないのに保育園探しねぇ。
 
 通えそうな範囲にある認可・認証・無認可保育園を洗い出して一覧にする作業は表作りが得意なオットの人に任せて、ベースができあがったところでアプローチを開始。まとめて役所に申請する認可はとりあえず置いておいて、手始めに近所の認証保育園に電話をしてみると、出産後にのみ見学・キャンセル待ち可能、現在0歳児の待機50名程度とのこと。そして(複数の園に併願しているであろうことを鑑みても)既に50名って…。

 クラクラしながらリストの次点に電話。現在0歳児の待機60名程度、平日の13:30〜見学会と登録受付、訪問ナシの登録は不可。いや、あの、平日の13:30は労働してるから、保育園に興味があるんですけどね…という心の声を虚ろに響かせつつ、次回の検診の日にアポをとった。

 そして当日。猛暑のなか汗だくでたどり着いた、交通の便の至極悪い園。ここに通うのって現実的なのかな、と疑問を抱きつつ、部屋の片隅の二畳くらいの空きスペースで「見学会」が始まるのを待つ。13:30現在、キッズは昼寝タイムで爆睡中。ほかにもう一人、1歳児を連れた女性が参加。

「こんにちは。当園はこんな感じです。ご質問はありますか」
二畳スペースから一歩も移動しないまま、まさかの100%リアクティブオンリー対応! 何らかの説明を受けられるものと思っていたあたしは度肝を抜かれて言葉を失ってしまった。もう一人の女性が質問をするが、一歳児の入園はまず無理、というニュアンスのことを言われて意気消沈している。

 園の人数、延長保育等、なんとか思いついたいくつかの質問をして登録カードというのを記入。一年間保管します、空きが出たら連絡します、という説明を聞いてから扉を出たのが13:38。8分…。後半休までとって8分の「見学会」にどっと疲れた。

 つくづく先が思いやられるが、戦いの火蓋は切って落とされたのだからやるしかない。戦わないことを選ぶと「区議会議員への付け届けで入園できた知人がいる」という都市伝説まがいの情報を追求するしか選択肢がなくなる。怠惰な平和主義者としてはそっちの方に行きたい気もするけど…。

2013年6月3日月曜日

マタないはずのマタクシー

タクシーに載ったら、「マタニティ・タクシー」のパンフが目に入った。事前に登録しておくと陣痛で病院に移動するときにスムーズに配車してくれる、というサービスだ。前に深夜のタクシーでお喋りな運転手さんにつかまり「最近はこんなサービスもしてるんですよ」と言われたときは、無縁のものとして聞き流していたのに、まさか自分が利用することになるとは。

 陣痛が起こったときに家人が在宅ならばもちろん送ってくれるだろうが、いつ何時起こるか分からない。死ぬほど痛いらしいから、自分で運転は多分無理なんだろう。さっそく登録してみる。配車料金の400円が加算されるけど、基本は通常の乗車料金。自宅と病院を登録しておくことで、細かい道順を言わなくても輸送してくれるはずで、料金は後払いにもできるそうな。

 なんとなく贔屓の国際自動車(km)にしたけど、日本交通も「陣痛タクシー」として同様のサービスを提供している。ざっと比較した限り、km は破水に備えたシートのタクシーが来て、日本交通はタオルかビニールシートを自分で用意する、という点だけが違う。km のがラクだけど、その分破水アトがあるのかもしれないし、どっちのがいいのかは分からん。

 なんとなく安心、という反面、ホントにいざという時に頼れるの? うちの前の一方通行大丈夫?いつも大通りでタクシー降りるけど? と疑心暗鬼になって、オオカミ少年プレイ(試しに呼んでみる)をしたくてウズウズしてたら、なんと登録翌日に電話がかかってきた。「地図で確認していますが、この角の物件でよろしいですか?」と確認される。やるなぁ。出番は基本一回しかないし、それすらも、状況によっては(誰かが送ってくれるとか)流れるかもしれないのに、この細やかさ。日本的なサービスにちょっとホッとする。陣痛…遥か遠いことのようで、順調にいけば三ヶ月以内に確実にやってくるもの…ピースでセーフなドライビングでコトが運びますよーに。